Management:
企業経営をしていると、売り上げが面白いように伸びて、それに比例して、人的交流のレベルも上昇し、その範囲も飛躍的に拡大する。そして、他社の経営をみて、自社のビジネス拡大に様々なアイデアが浮かんでくる。あるいは、業績不振の企業から、支援の依頼が舞い込む。そして、その企業を買収して、自社の業績拡大に何とか利用できないかと考える。上り調子の企業には、このような時期が、必ず存在する。
しかし、様々な事業に手を出すには、絶対的な資金力が不可欠である。京都の運送・物流サービス企業が、業務の急拡大に資金繰りが追いつかず民事再生法の適用を申請している。29歳の若さで社長に就任した、この会社の社長は、高い能力と行動力で、業績を拡大していった。素晴らしい自分の頭脳から湧き出るアイデアに酔いしれて、次々と子会社を設立したが、多くの子会社は期待したほどには稼げず、結局、親会社が赤字を補填することになる。そして、最後には、親会社の経営も悪化する。この時点で、「銀行は雨の日には、傘を貸さない」という、厳しい現実に直面する。そして、あげくのはてに、民事再生法の適用を受けることになる。
この企業が設立した子会社のラインアップをみると、まるで統一がとれていない。不動産売買や携帯電話の販売にも進出し、さらに、将来は環境事業が伸びると判断して、再生木材の販売にも進出している。物流サービス業と販売業は、まったく違うビジネスである。また、環境事業は、国の政策にも大きく影響されるので、技術力のない中小企業が安易に手を出さないほうがよい。国の大幅なバックアップが可能となれば、大企業がどっと押し寄せて、中小企業は土俵の外に弾き飛ばされる。環境ビジネスの現状を見れば、技術の裏づけのない企業が行き詰っているのが理解できる。
何といっても、この企業の一番の問題点は、運送・物流サービスという、本質的に高収益体制になり得ない事業形態で、様々な事業に進出したことである。ヤマト運輸が、運送・物流サービスという事業に特化している戦略をみると、自分のアイデアに酔いしれることが、いかにリスクが高いかを、この事例は教えている。懇親会で、儲かりそうなビジネスが見つかると、すぐに飛びついても上手くはいかない。本当に儲かるビジネスは、当の本人は誰にも話さないものである。株の予想も、競馬の予想も、本当に儲かるなら、予想する本人は誰にも話さない。当然の話である。
このような経緯をたどった企業の経営者は、多くの場合、もう少し資金の余裕があれば、何とかなったと弁解する。これは、企業年金の運用で1,000億円以上の損失を出した運用会社の経営者が、あと100億円あれば、何とかなったと弁解するのと、まったく同じである。あきれるほど、不見識な言い分である。まったく、「市場と顧客」という重大な観点が抜けている。
どのようなビジネスでも、「市場と顧客」の観点から、市場の変化と顧客の要求にどのようにして応えるかを考えることが重要で、それを実行するには豊富な資金力が不可欠である。高収益体制を構築することなしに、湧き出るアイデアを次々と実行していると、いつかは、資金が尽きる。