Saturday, April 14, 2012

No. 94: 尽きないアイデアをすべて実行すると、最後には資金が尽きる (April 14, 2012)

Management:
企業経営をしていると、売り上げが面白いように伸びて、それに比例して、人的交流のレベルも上昇し、その範囲も飛躍的に拡大する。そして、他社の経営をみて、自社のビジネス拡大に様々なアイデアが浮かんでくる。あるいは、業績不振の企業から、支援の依頼が舞い込む。そして、その企業を買収して、自社の業績拡大に何とか利用できないかと考える。上り調子の企業には、このような時期が、必ず存在する。

しかし、様々な事業に手を出すには、絶対的な資金力が不可欠である。京都の運送・物流サービス企業が、業務の急拡大に資金繰りが追いつかず民事再生法の適用を申請している。29歳の若さで社長に就任した、この会社の社長は、高い能力と行動力で、業績を拡大していった。素晴らしい自分の頭脳から湧き出るアイデアに酔いしれて、次々と子会社を設立したが、多くの子会社は期待したほどには稼げず、結局、親会社が赤字を補填することになる。そして、最後には、親会社の経営も悪化する。この時点で、「銀行は雨の日には、傘を貸さない」という、厳しい現実に直面する。そして、あげくのはてに、民事再生法の適用を受けることになる。

この企業が設立した子会社のラインアップをみると、まるで統一がとれていない。不動産売買や携帯電話の販売にも進出し、さらに、将来は環境事業が伸びると判断して、再生木材の販売にも進出している。物流サービス業と販売業は、まったく違うビジネスである。また、環境事業は、国の政策にも大きく影響されるので、技術力のない中小企業が安易に手を出さないほうがよい。国の大幅なバックアップが可能となれば、大企業がどっと押し寄せて、中小企業は土俵の外に弾き飛ばされる。環境ビジネスの現状を見れば、技術の裏づけのない企業が行き詰っているのが理解できる。

何といっても、この企業の一番の問題点は、運送・物流サービスという、本質的に高収益体制になり得ない事業形態で、様々な事業に進出したことである。ヤマト運輸が、運送・物流サービスという事業に特化している戦略をみると、自分のアイデアに酔いしれることが、いかにリスクが高いかを、この事例は教えている。懇親会で、儲かりそうなビジネスが見つかると、すぐに飛びついても上手くはいかない。本当に儲かるビジネスは、当の本人は誰にも話さないものである。株の予想も、競馬の予想も、本当に儲かるなら、予想する本人は誰にも話さない。当然の話である。

このような経緯をたどった企業の経営者は、多くの場合、もう少し資金の余裕があれば、何とかなったと弁解する。これは、企業年金の運用で1,000億円以上の損失を出した運用会社の経営者が、あと100億円あれば、何とかなったと弁解するのと、まったく同じである。あきれるほど、不見識な言い分である。まったく、「市場と顧客」という重大な観点が抜けている。

どのようなビジネスでも、「市場と顧客」の観点から、市場の変化と顧客の要求にどのようにして応えるかを考えることが重要で、それを実行するには豊富な資金力が不可欠である。高収益体制を構築することなしに、湧き出るアイデアを次々と実行していると、いつかは、資金が尽きる。

Sunday, April 1, 2012

No. 93: 細分化をともなわない選択と集中は危険 (April 2, 2012)

Management:
エルピーダメモリの破綻や、日本が世界に誇る大手家電メーカーの業績の悪化と立て続けに暗いニュースが報道され、行き過ぎた選択と集中が原因だという意見が主流になっている。しかし、家電大手の悲惨な業績は、選択と集中の戦略が間違っているのではなく、ビジネスの動向を見きわめて、市場、製品、対象とする顧客を細分化して、選択と集中の戦略を構築しないと、価格競争に巻き込まれる可能性が高く、大きな痛手を負うことを教えている。それをいち早く認識して、自社の強みを活かせるビジネスに特化した日立は、業績を大幅に改善させている。

同様なことがエルピーダメモリにも言える。得意先を、旧電電グループ企業の枠組みから超越することができず、ひたすら高性能で高品質の製品をより安く製造することに経営資源を投入した。半導体や家電製品のように、かなりの程度まで、コモデティ化がすすんだ商品は、選択と集中を追及して、大きな投資でコストを下げ、さらに良い品質を市場に出すという戦略だと、グローバル市場で苦戦するのが目に見えている。どんなにがんばっても、驚くほど安い人件費で、ものづくりをする国と戦っても、絶対に勝ち目はない。しかも、情報は瞬時に世界をかけめぐる。

高性能で高品質な商品を安く提供すれば、お客さまは喜んでくれるので、きっとよく売れるだろうと考えるのは、日本を中心にしてグローバル市場をみる、まったくの天動説。グローバル市場は、日本を中心に回っているのではない。サムソンが実行しているように、世界各地に営業員を駐在させて、現地顧客の要望を地道に取り上げる努力が不可欠である。その努力がサムソンの飛躍を可能にしたのである。円高は、家電メーカーの業績悪化の一要因に過ぎない。

さらに、市場を細分化して、企業に相応しいかどうかを精査する努力が必要である。選択と集中で、経営の行き詰ったコダックの例が、このことを示している。プリンターの市場は、コダックのような大企業がビジネスをするには、小さすぎる。企業規模に比して、小さい市場に参入しても、うまくはいかない。もちろん、大きすぎる市場に参入しても、うまくはいかない。「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という例えのように、自社の力を見きわめて市場を創造し、参入することが重要である。

現在の厳しいビジネス環境でも、アイリスオーヤマ小林製薬は、業績を大きく伸ばしている。これらの優良企業の経営の視点は、どのようにしたら過当競争から逃れることができるかである。つまり、事業領域を単なる製造業や製薬業ととらえずに、「これがあればいいな」という視点でビジネスをとらえている。事業領域を、このようにとらえることが必要な時代になっている。せっかく「C&C」(Computer and Communication)という事業領域で一時代を築いたNECが、それに続く素晴らしい事業領域を構築できずに、業績を悪化させている。ビジネスのグローバル化がすすむ今日では、「家電製造業」という事業領域では、業績の悪化は避けらない。