Wednesday, December 12, 2012

No. 109: 「渚にて」を覚えているか (December 12, 2012)

Management:
いつものことながら、選挙運動が激しくなると、選挙に勝つことに焦点を合わせた演説が多くなる。「原発を稼動させて、経済を発展させるのは恥ずかしい」と叫んだ候補者がいた。なぜ、恥ずかしいのか、まったく理解できない。「コンクリート(セメント)から人へ」も同じ。当時の麻生首相をあてこすった表現であることは明白。政治は、生徒会ではない。耳に心地よい表現を使って、聴衆のうけを狙うべきではない。原発の問題は、非常に重要な問題ではあるが、それ以上に重要なのは、日本の競争力をどのように強化するかである。国の競争力を強化することなく、国民に豊かな生活を約束することはできない。お金は決して天から降ってこない。

むかし、グレゴリー・ペックとエヴァ・ガードナーが主演した「渚にて(On the Beach)」という映画があった。オーストラリアの準国歌というべき「ワルティング・マチルダ」という歌とともに大ヒットした映画である。米ソが核戦争をしたため、オーストラリア以外の世界が死滅して、オーストラリアもやがて死滅してしまうという、核の恐ろしさを描いた名作である。しかし、人類の英知と技術革新がその恐怖を克服し、原子力の平和利用がすすんだ。そして、そのおかげで快適な生活を享受できるようになった。この事実を忘れるべきではない。

原発事故をなくすには、原発を破棄すればよいという単純な思考は、格差があるなら、格差をなくそうと同じくらいに脳天気な思考。「格差のない社会」これほど、耳に心地よい言葉はない。国民全員が優雅な生活を享受できるような気持ちにさせる。残念ながら、そうはならなかった。それどころか、経済がガタガタになってしまった。格差のない社会とは、どんな社会か。それは、国民がすべて競争しない、つまり、努力しない国家である。そのような国家が存続できるはずがない。原発の問題を考える場合、原発をなくすという視点よりも、原発の安全性をさらに高めるには、どうすればよいかという視点のほうが重要。

On The Beach

Waltzing matilda
 

Tuesday, November 27, 2012

No. 108: 企業経営は逆算 (November 28, 2012)

Management:
企業経営は逆算である。来期あるいは5年後の企業のあり方を考え、構想を実現するための利益目標を設定する。そして、その利益目標を達成するための道筋を考えて、各部門に目標となる数値を割り振る。利益目標を出さずに、みんなで一生懸命にやりました。そして、その結果がこうですというのは、事業ではなく家業。政治は事業であり家業ではない。

最高責任者が、曖昧な表現や意味不明瞭な表現をする企業に、魅力を感じる投資家はいない。脳天気な公約や理解不能な公約は、政治家を中心に有権者を見る天動説の見本。「今解散したら、自民党の思うつぼだ」と思わず叫んだ議員がいたが、このような議員にかぎって、公のインタビューでは、「国民のことをもっと真剣に考えて、もっともっと議論する必要がある」と言う。

企業経営は逆算。どのような目標をかかげても100%達成ということはあり得ない。常に、100%達成できる楽な目標を立てる企業は、そのうち、市場から姿を消す。また、目標を100%達成するため、途中で目標値を変更するべきでない。目標を100%達成するために努力することは最も重要であるが、100%達成できなかったのは、なにが問題だったのかを考え、改善策を立案し、次の事業計画に反映させることが、同じくらいに重要なのである。

Sunday, November 25, 2012

No. 107: 農林1号を覚えているか (November 26, 2012)

Management:
総選挙が近づくと、農政が常に大きな争点になる。農業が国の存続にかかわる重要な産業であることも、農業従事者の票が選挙に非常に重要であることも、高名な政治家が声を大にして叫ばなくとも、小学生でも理解できることである。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加すると、日本の農業が壊滅的なダメージを受けてしてしまうと危惧する政治家は多い。元総理大臣がこのような考え方を、政治集会で述べている。最高責任者が、現状を守ることにのみ焦点を合わせているようでは、国の競争力を強化することはできない。

現在では、新潟県を始めとする寒い地方でも、素晴らしい米が産出されているが、米はもともと亜熱帯地方の作物である。つまり、東南アジアの国々のように高温多湿の気候が生育には不可欠な条件であった。寒い地方でも米の生産を可能にしたのが、1931年(昭和6年)に農林省の技術者が開発した農林1号という歴史に残る品種である。コシヒカリやササニシキ等の品種は、すべてこの農林1号の子孫である。日本人が、十分に食べられるようになったのは、1960(昭和35)くらいと考えるのが一般的であり、そんなに昔のことではない。今日の美食と飽食の背景には、地道な品種改良の歴史があったことを忘れてはいけない。現在でも、世界を見れば飢えや飢饉はめずらしい話ではない。

日本が蓄積した素晴らしい農業技術力を海外に輸出する、あるいは、その技術で海外原産の農産物を日本向けに改良する努力をすることが必要な時代になっている。さらに、農産物も厳しいコスト競争に勝ち抜く智恵と努力が求められている。業績不振にあえぐ外食産業が、コスト削減のため輸入食材の使用を増やす。当然の成り行きである。いつまでも、変化することを嫌い問題解決を先送りすると、世界の動きに対応できなくなる。

Tuesday, October 23, 2012

No. 106: ビジネスでは地動説が不可欠 (October 24, 2012)

Management:
急成長しているネット企業の社長の発言が大きな話題になっている。お客様を無視した発言であると、厳しい意見が相次いで投稿されている。発言を読んでみると、急成長した企業の経営者が、一度は経験する内容である。つまり、一躍有名になってしまうと、世の中は自分中心に回っていると思ってしまう。人間が自己中心的な動物である以上、このような発言をする危険性は、誰にでもある。

ビジネスでは、天動説ではなく地動説。世の中は、決して、自分中心に回っていない。どのような大企業であっても、必要なのは地動説。自社の素晴らしいテクノロジーにだけ焦点を合わせ、コスト削減の努力をすることなく、最先端技術を追い求めた企業も同じと考えてもよい。日本航空の歴史に残る素晴らしい復活劇を可能にしたのも、自社の視線でお客さまをみるのではなく、お客さまの視線で自社を見ることの重要性に、社員全員が気付いたからである。

ネット時代になって、情報は瞬時に世界を駆け巡る。素晴らしいアイデアと思っても、すぐに摸倣されるし、同様なアイデアでビジネスを展開している企業は世界中に存在する。競争力を維持するためには、不断の努力が必要である。

”The purpose of business is to create and keep a customer” は、ドラッカーが残してくれた素晴らしい言葉である。アイデアで顧客は創造できるが、アイデアだけで顧客を維持することは不可能である。つまり、顧客を維持するためには、不断の技術革新が必要不可欠である。そして、技術革新のヒントをくれるのが、お客さまなのである。

Thursday, October 4, 2012

No. 105: サムライ魂と孫子の兵法 (October 4, 2012)

Management:
チェコの首都プラハ中心部にある日本大使館前で、現地の中国系住民ら約100人が、尖閣諸島の国有化に抗議するデモをしたことが報道されている。また、真偽のほどはともかく、東京証券取引所では、不思議な動きをする中国企業の暗躍が報じられている。まさか、中国政府がバックアップしていることはないであろうが、それにしても、驚かされる。

「孫子の兵法」に、最高の戦略は「戦わずして勝つ」という記述がある。つまり、謀略のかぎりをつくして相手国を負かすというもの。デモをした人たちや、暗躍する企業の人たちは、この戦略を忠実に守って行動しているわけではないだろうが、やはり、4000年の歴史に裏づけされた国民のすごさを感じさせられる。

わが国の総理大臣が「大人の対応」を中国政府にお願いしたが、どうもその効果はなさそうである。そもそも、「大人の対応」とは何を意味するのか、言語明瞭なれど意味不明瞭。日本人のもつ美徳である以心伝心と言えば、それまでであるが、残念ながら、世界では通用しない。サムライ魂を愛してやまない日本人の琴線にふれる言葉であっても、それが通用するのは日本国内だけ。

一番心配されるのは、日本の政治の動きが遅いため、世界の日本を見る目が変化することである。つまり、行動をおこさないと、世界が、行動を起こしている中国の動きから、状況を判断してしまうことである。

トーマス・ワトソンの教訓ではないが、問題はすぐに解決すべきである。ビジネスでは、グローバル化が急速に進展しているが、どうも政治の世界では、未だに内向きの姿勢が主流のようである。

Tuesday, October 2, 2012

No. 104: 事業の多角化よりも市場の多角化 (October 3, 2012)

Management:
事業環境の変化で、本業の先行きが不透明になる。どのような企業でも、そのような局面に遭遇する。売上減を防ぐのに一番手っ取り早い方法として、他社を吸収し、新事業に乗り出して、事業の多角化を推進する企業は多い。しかし、ほとんどの場合、上手くいかない。

日本たばこ産業も例外ではない。かつて、森永製菓の子会社であるハンバーガーチェーン「森永ラブ」に出資したが上手くは行かず、2001年に撤退。店舗はロッテリアに売却された。高い授業料を払ったものである。しかし、貴重な教訓を生かすこともできず、今度は、旭化成の食品事業や冷凍食品の加ト吉を買収して、再度食品事業に進出している。それだけならまだしも、鳥居薬品を買収して医薬品事業に参入している。まったく、戦略に一貫性がない。まさに、お金の心配をする必要のなかった、日本専売公社の考え方そのもの。

毎日の売上に一喜一憂して戦略を考える必要のある外食産業、毎日消費者の動向をみて、柔軟に戦略を変える必要のある食品産業、10年あるいは20年先を考えて、戦略を練る必要のある医薬品産業、そして、本業のたばこ事業。このような事業をすべて上手く運営できる会社は、まず、存在しない。どんな優秀な社員でも、毎日の売上と、10年あるいは20年先のビジネスの先行きとを、毎日の日常業務で考えて行動することは不可能。当然の帰結として、事業部門間のコミユニケーションは疎遠になり、企業全体がぎくしゃくする。

事業の多角化は難しい。無理をして推進しても、利益率の低い事業構造を構築するだけになる。多角化するのは、事業ではなく市場。たばこの開発・製造で蓄積した技術を活かせる市場を考える。あるいは、市場を観察して、たばこ製造機の仕様を変更して生産可能な商品アイデアを考える。答えは、簡単に見つからない。しかし、社員が一丸となって、アイデアを出し合うことが重要である。それしかない。答えは市場にある。社内にはない。

どんなに楽観的に考えても、国内のたばこ市場は縮小する。そのためにも、不断の努力と全社員の英知を集めることが不可欠である。たばこ製造で蓄積した技術で、ITあるいはクラウドコンピューティングを駆使した製造業へのオペーレーションコンサルティング、たばこの香料開発で蓄積した技術で香料の開発あるいはコンサルティング、あるいは、蓄積したブレンド技術やコンサルティングも可能である。もう、たばこという看板にこだわる必要はない。いま、キヤノンをカメラメーカーと考える消費者はいない。必要なことは、発想の転換。

No. 103: リスクを分散させることは重要 (October 3, 2012)

Management:
日本触媒の事故で、紙おむつのサプライチェーンが混乱する可能性がでてきた。高級吸水性樹脂と、その原料であるアクリル酸の生産が停止したので、遅かれ早かれ、紙おむつを生産する企業は、すべて影響を受けることになる。

ビジネスでは、仕入先も得意先も、1社に大きく依存せずリスクを分散する体質を構築する努力は必要である。これは、交渉力を維持するという観点からも、非常に重要である。仕入先については、技術面から、複数の企業に分散することは難しい。しかし、不可能ではないはず。これは、素材メーカーの日本触媒の立場から言えば、得意先を分散することが必要ということになる。中堅企業が大手企業からの受注に大きく依存していたため、大手企業からの受注がなくなった途端、経営難になるケースは多い。

それでは、一社に依存する割合はどれくらいが適切であろうか。もちろん、正解はない。仕入先の分散については、個々に考えるしかない。しかし、得意先の分散については、1社で20%くらいが限界と考えられる。つまり、20%の売上減なら、販売努力や経費節減等で、何とかカバーできると考えられる。

リスクを分散することは重要である。これは、国家単位で考えても同じ。エネルギー政策を考えると、島国である日本は、非常に危うい状況にある。陸続きのヨーロッパ諸国と同じように考えるべきではない。偉大な政治家であるチャーチルは、エネルギー政策について、エネルギー源を多様化させることの重要性を強調している。同じ島国として、常に頭に入れておくべき教訓である。

No. 102: なぜ、ウォークマンは成功したのか?(October 2, 2012)

Marketing:
技術の進歩によって、スマホや携帯電話で様々なことができるようになった。こうなると、技術者は、次から次へと新しい機能を追加したくなる。優秀な技術者ほど、自分の才能を誇示したくて、新しい機能を開発したいという要望を抑えることができない。そして、ほとんど使用することのない機能が増え、商品価格を押し上げる結果となる。

なぜ、ウォークマンは成功したのか?それは、リスニングに特化した商品だったからである。ソニーの技術をもってすれば、ウォークマンに様々な機能をつけることは可能であっただろう。しかし、ソニーは、いつでも音楽を聴きたいという要望だけを満たす商品として、リスニングに特化したウォークマンを開発し、それが歴史に残る商品となった。

かつて、松下幸之助氏は、得意満面で新商品のプレゼンテーションする技術者に、「消費者は、その商品を買って喜ぶのか」と質問した。予期せぬ質問に、技術者は即答できなかったという。どのようなときでも、消費者の目線を忘れてはいけないという教訓として、技術者が心に留めておくべき教訓である。

Sunday, September 30, 2012

No. 101: ビジネスは小さく考えるほど、強固になる (October 1, 2012)

Management:
テーマ特化型交流サイトの人気が急上昇している。料理、旅行、ペットといった趣味性の強い分野を題材にしたサイトは、多くの利用者を集めている。交流サイトという市場も、また細分化されていくという事実を意味している。

ビジネスは小さく考えるほど、強固なビジネスになり、高収益構造の構築が容易になる。パナソニックの企業力をもってしても、「家まるごと」という戦略はうまくいかなかった。これだけ、技術が高度化し、技術革新のスピードが速いと、カバーする領域が広いほど、技術革新についていくのは難しい。

コングロマリットというビジネスコンセプトがある。日本語で複合企業と訳されて、もてはやされた時期があった。様々な企業を集めて、複数の企業で、景気の変動によるリスクを補いながら、全体として企業規模を大きくするというアイデアであるが、理想どおりうまくいっている例は少ない。GEも、コングロマリットという言葉を使用しないで、multibusiness company という言葉を使用している。

グローバル競争の時代には、吸収合併は不可欠である。しかし、事業形態の違う企業を吸収あるいは合併すると、自社に組み入れた企業数が増えるにつれて、それを経営して全体最適を求めるのは、加速度的に難しくなる。

No. 100: 環境に適応する能力が必要不可欠 (October 1, 2012)

Management:
どのような企業でも、業績を直線的に増加させることは不可能である。事業部門別や商品別でも同様なことが言える。競争相手がある以上、これは必然的に起こることである。業績が停滞する、あるいは、低下するのは、どこかに問題が発生していることを意味する。そこで、会議を開き、問題解決に向けての議論をすることになる。そして、問題の原因は見つかるけれども、どのように解決するかについて、意見がまとまらず、延々と時間を費やして議論する。

IBMの創始者であるトーマス・ワトソンの子息で、IBMを偉大な企業にしたトーマス・ワトソン・ジュニアは、コンピュータの将来性をいち早く見抜いた歴史に残る優れた経営者である。彼は、問題を発見したら(1)直ちに解決せよ、(2)正誤にとらわれず、とにかく答えを出せ、(3)もし、出した答えが間違っていたら、問題は再び戻ってきて、あなたの顔をひっぱたく。その時に、正しい答えを出すことができるという、3つの教訓を残している。これは、GEの社長であったジャック・ウェルチがいう、走りながら考える、と内容的には同じである。

ビジネス環境の変化が、ますます速くなる現代では、議論しつくして出した答えが、環境に適応できず、解決策として使用できないこともありえる。重要なことは、考え抜いた解決策であっても、間違っていたら、修正する勇気をもつことである。人間がやることである以上、完璧なものはない。ダーウィンが言うように、生き残る種は、頭のよい種でもなく、力のある種でもない。環境に適応できる能力が一番高い種が生き残る。ビジネスでも、同じことが言える。磐石な経営基盤をもつ、大企業といえども、環境の変化に適用できなければ、市場から淘汰される。

Friday, September 28, 2012

No. 99: 空海を覚えているか?(September 29, 2012)

Management:
日本と中国の関係が、いよいよ深刻になってきた。ナショナリズムが激高すると、時間とともに鎮静化を待つしかない。経済関係を考慮して、時間とともに、不安定な状態も、いつかは落ち着くものである。フォークランド紛争で、英国とアルゼンチンの関係に緊張が走ったが、現在でも、両国がいがみ合っているわけではない。世界の歴史とは、このようなナショナリズムの対決の歴史といっても過言ではない。対決の歴史を見ずして、友愛を追い求めた日本が、あまりにも脳天気であったとうことである。

政治主導という理想のもとに、世界一プライドが高いうえに儒教を基本思想とする国家に、第一級のキャリア官僚を大使として送らず、安易に民間人を大使に任命したという問題点はもっと深刻に考えてもよい。ニクソン大統領も田中首相も、自らが中国を訪問している。良くも悪くも、中国とはそういう国なのである。中国の歴史を見れば、第一級のキャリア官僚を送り、政府高官とのネットワークを構築すべきではなかったか。

中国行きの船が難破しかけたため、空海を含め遣唐使の一行が中国に着いたときの身なりは、ひどい身なりであった。遭難で国書も失ったため、彼らの運命は過酷であった。国の代表として来たと言っても、信じてもらえず、隔離された状態におかれてしまった。そこで、空海は、唐の皇帝あてに、自らが漢文で親書をしたためた。その親書に書かれた第一級の素晴らしい漢文をみて、役所の人間は大変におどろき、長安まで、彼らを丁重に送り届けている。つまり、見事な漢文だけで、一行が皇帝に会うに相応しい人物であることを、空海は伝えたのである。この事実は、空海の素晴らしい能力もさることながら、人物を評価する中国人のメンタリティを示しており、非常に興味深い。

ビジネスでも同じである。大企業相手の、大規模な商談やプロジェクトでは、社長あるいはそれに相応しい肩書きのある人物が行く必要がある。社長でない人物あるいはそれに相応しい肩書きのない人物が、社長から権限を与えられて来ましたと、相手企業の社長クラスの人物に挨拶するようでは、商談やプロジェクトがまとまる可能性はない。

かつて、クライスラー再建の立役者である、リー・アイアコッカは、大統領選挙に出て欲しいという誘いに、「ビジネスと政治は違う」と、一言のもとに依頼を断っている。外交とは、国と国の国益のぶつかり合いである。安易に、自国の政治姿勢だけで、動くものではない。政治もビジネスも、相手があってはじめて成立するものである。

No. 98: 消費者にアピールする値引き方法は?(September 29, 2012)

Marketing:
ネット社会になってクーポンの氾濫。はたして、どれくらい販促の役に立っているだろうか。これだけ氾濫すると、消費者の立場から見ると、クーポンの値引き分をあらかじめ計算して、価格を決定しているのではないかと思ってしまう。まして、割り引きが、パーセントで表示されていると、なおさらその気持ちが強くなる。消費者の心理を読むのは、難しいものである。

米国ミネソタ大学の研究チームが、消費者の値引きにたいする反応を調査している。つまり、価格を変更せずに容量を大きくした場合と、容量を変更せずに価格を下げた場合とを比較している。その結果、消費者は圧倒的に前者を選んでいる。

例えば、100gで1,000円の商品を、150gに増量して1,000円で販売すると、1g当たりの商品単価は、10円から6.7円になる。そして、同じ1g当りの商品単価にするには、商品を33%値引きして、100gを670円で販売することが必要である。この場合、圧倒的多数の消費者が前者を選び、増量分を得したと感じる。実験結果では、前者の戦略を取ると、売り上げが73%増加している。つまり、消費者の五感に訴えた方がより効果がある。つまり、50gの増量と、330円の値引きでは、50gの増力の方が、消費者にアピールする。これは、50330の数字がもたらす、簡潔さと関連している。

さらに、一度に40%の値引きを提示するよりも、20%の値引きを提示して、さらに、定価の80%になった商品を、さらに25%値引きして、合計で40%の値引きをして、定価の60%で商品を販売するほうが効果があるという調査結果になっている。つまり、値引きを二段階に分けると、よりインパクトが強くなるというこである。この場合も、数字は簡潔であるほうがよい。

数字の計算が大好きな人物は別として、一般の消費者は、買い物をするのに、あまり細かい計算はできないし、やりたくないものである。例えば、車の燃費が向上したことを、消費者に訴えるのに、燃費が何パーセント向上して、リッター当たりの走行距離が27 km になったというのと、1リッター当たりの走行距離が、25 km から27 km になりましたと広告する場合とでは、消費者の記憶に残る数字は、明らかに、25 km から27 kmである。

現代社会は、数字の氾濫で、全員が数字の解釈に苦労している。消費者は買い物に、簡潔なメッセージと簡潔な数字を求めるのも、当然といえる。

No. 97: 東南アジア市場での、競争はさらに激化する。決め手はマーケティング (September 28, 2012)

Marketing:
味の素やキッコーマン等の、食品大手がアジア市場の開拓を本格化させる。現地のニーズにあった商品戦略で、拡大する中間層の需要を掘り起こす。食の高級化がすすむ東南アジアの市場は、プロクター・ギャンブル (P&G) とユニリーバの欧米メーカーの存在が大きく、これから激しい戦いが予想される。この欧米二強の動きを観察すると、日本企業のアジア市場拡大のヒントが見えてくる。

P&Gとユニリーバはアジア市場では、長年のライバル関係にある。中国ではP&Gがマーケットリダーであり、インドでは、ユニリーバがP&Gを抑えている。中国と違ってインドでは、まだ量販店チェーンが発達しておらず、個人商店が多いうえに、インターネットの普及も低い。そのため、ユニリーバを追いかけるため、P&Gは地道な努力をしている。例えば、政府の許可を得て、学校に行き、生徒に石けんで手を洗うことや、歯磨きの習慣を根付かせるプログラムを実行している。

両社は、インド市場を、三つのクラスに分けている。つまり、欧米と同じブランド商品を購入できる富裕層、急速に人口が増加する中間層、そして、ブランド商品を購入したことがない階級層の三つの層に分解している。P&Gは、富裕層でない消費者にも買える商品開発について、ユニリーバに対抗できていない。つまり、小さな容器に入れて、販売するという戦略で、ユニリーバに遅れを取っている。つまり、米国市場の発想では、一個20セント以下で商品を売るというアイデアが思いつかないのである。しかし、小袋で販売するという戦略は非常に重要である。事実、インドネシアでは、ユニリーバの売り上げの三分の一が、単価が20セント以下である。

これは、歴史から見ると、英国企業とオランダ企業が合併してできたユニリーバと、米国という巨大市場で、世界一のヘルスケアー企業となったP&Gの違いといえる。特に、P&Gは、本社のシンシナティを中心にした統合システムで有名である。両者とも、素晴らしい研究開発力を有しているので、商品にはそんなに差はない。やはり決めては、マーケティングということになる。いくら本社で戦略を練り上げても、現地の状況に即していないと、まったく役に立たない。

リンスあるいはかゆみ止めも可能なシャンプーを売るよりも、まずシャンプーする回数を増やすことが必要だとすれば、下水道等の社会インフラの面からも市場を観察する必要がある。日本企業が、商品を小袋にいれて小額単位で販売する戦略は100%正しい。しかし、社会インフラを考慮にいれて、地道に努力するという時間がかかるが、これしかないという戦略を地道に実行することが重要である。

Sunday, September 9, 2012

No. 96: 分からないビジネスには手を出さない (September 10, 2012)

Management:
焼肉店チェーンで、最大手の「牛角」を含め、全国で約1,200店の外食店を経営するレックス・ホールディングスが居酒屋最大手のコロワイドに買収されることになった。焼肉店チェーンという、今までにないコンセプトを確立して、急成長したレックス・ホールディングは、事業拡張のためコンビニエンスストアやスーパーマーケットの経営に乗り出した。新しく進出した二つのビジネスが、上手く行かず、多額の負債を抱え込み、さらに本業も経営不振の状態が続き、結局、他社に買収されることなった。

この事例は、経営者が分からないビジネスには、手を出してはいけないという教訓を与えている。外食店チェーンの経営と、コンビニエンスストアの経営、スーパーマーケットの経営は、それぞれまったく別のビジネスである。しかも、コンビニエンスストアやスーパーマーケットのビジネスが、本業の焼肉店チェーンビジネスに、シナジー効果をほとんどもたらさない。これは、落ち着いて考えると、容易に理解できるはずである。大手スーパーマーケットが経営する外食ビジネスでも、外食市場での存在感が低いという事実を考えると、資本力のない中堅企業が、絶対的に数の論理がものをいう、チェーン店ビジネスで、3分野も同時に追い求めることは不可能である。

焼肉店チェーンという新しいコンセプトを確立し、優良企業として、外食産業の先頭を走っていたのに、本質的にまったく違うビジネスに手を出すべきではなかった。ステーキと違って、焼肉は、日本が生んだ固有の文化である。食の高級化が猛スピードで進む、中国をはじめとするアジアの諸国へ進出すれば、素晴らしいビジネスが展開できたはずである。世界の食通にとって、日本の食材で一番印象に残るのは、焼肉あるいは焼き鳥に必要な「たれ」である。単純にソースと英訳してしまうと、「たれ」のもつ本来の意味が失われるくらいに、奥深い文化なのである。

富士重工は、車の走行性能を重視するファンに的を絞って、車を開発しマーケティングをしている。トヨタや日産との競合をさけて、ひたすら、車好きのための車に焦点を当てている。事実、日本で考える以上に、北米では、スバルの人気は高く、スバリストと呼ばれるファンが存在する。どんな大企業でも、資金を含む経営資源には限りがある。グローバルな競争が、ますます激しくなっていく現状をみれば、経営資源の最適配分が、ますます重要になってくる。

Sunday, May 6, 2012

No. 95: プレミアムブランドのマーケティング戦略 (May 7, 2012)

Marketing:
英国のアクアスキュータムが破綻した。アクアスキュータムは、バーバリーよりも古い歴史をもち、世界に通用するプレミアムブランドであるが、自ら市場を開拓するという努力をせず、安易に、1990年にレナウンに約190億円で身売りをしてしまった。そして、今度は、そのレナウンが経営不振になって、中国企業に買収されてしまう。これで万事休す。そもそもレナウンがアクアスキュータムを買収すること自体が間違っている。海外のプレミアムブランドを買収すると、必ずその国の国民感情を、傷つけて、売り上げが激変する。それは、立場を変えると理解できる。日本人が愛してやまない日本のプレミアブランドが海外企業に買収されたら、日本人の心が急速に離れていくのは当然である。国民感情とは、そういうものである。

アクアスキュータムのケースは、販売を第三者にまかせることの危険性を再認識させてくれる。どんなに素晴らしい技術、商品、ブランドであっても、販売と市場開拓は、自社でやるという鉄則を忘れてはいけない。カルピスも同じ事例と考えることができる。味の素の傘下に入れば、ビジネスは問題ないと考えても、味の素の都合でアサヒ飲料グループに、いとも簡単に売却されてしまう。販売委託先の販売力を考えれば、当社の売り上げも上昇し、ばら色の人生が開けるという思いは、販売委託先の業績が悪化してしまえば、うたかたの夢に終わってしまう。

プレミアムブランドのマーケティングを考える場合、プレミアムを演出する舞台装置が必要である。その事実を忘れて、安易に廉価版を市場に投入して、シェアを増加させたが、ブランド価値を下げてしまう事例は多い。しかし、プレミアウムブランドといえども、シェアの拡大は必要である。しかし、それは、プレミアム市場でのシェアであるという認識が必要で、プレミアム市場でのシェア拡大にはどうすればよいかを考える必要がある。それには、以下の2点に焦点を絞るのがよい。1)ロイヤルティの高い顧客を引きつけて逃さない。そして、2)市場をさらに細分化して、その細分化した市場で、さらにブランド価値を高める。つまり、限られた市場で、常に技術革新を忘れず、常に新製品を出し続ける。

以上の2点を考慮すると、イタリアの誇るプレミアムブランドであるフェラーリのビジネスが理解できる。フェラーリは、高級車を購入できるお金持ちにフォーカスし、そのお金持ちを魅了する新型車を次々市場に投入している。この戦略は、高級品に特化して、市場を開拓しているスイスの腕時計メーカーの戦略をみるとよく理解できる。日本の腕時計市場では、スイス時計のシェアは、数量ベースでは10%であるが、金額ベースでは60%であるという事実がこの状態を見事に具現化している。

世の中、不景気になっても、常に価値の高いプレミアムブランドを求める消費者は、必ず存在する。要は、フォーカスする市場を見失わないことである。そして、販売と市場開拓は他社にまかせないで、自社でおこなう。そして地道な努力をすることが必要である。学問に王道がないように、ビジネスにも王道はない。

Saturday, April 14, 2012

No. 94: 尽きないアイデアをすべて実行すると、最後には資金が尽きる (April 14, 2012)

Management:
企業経営をしていると、売り上げが面白いように伸びて、それに比例して、人的交流のレベルも上昇し、その範囲も飛躍的に拡大する。そして、他社の経営をみて、自社のビジネス拡大に様々なアイデアが浮かんでくる。あるいは、業績不振の企業から、支援の依頼が舞い込む。そして、その企業を買収して、自社の業績拡大に何とか利用できないかと考える。上り調子の企業には、このような時期が、必ず存在する。

しかし、様々な事業に手を出すには、絶対的な資金力が不可欠である。京都の運送・物流サービス企業が、業務の急拡大に資金繰りが追いつかず民事再生法の適用を申請している。29歳の若さで社長に就任した、この会社の社長は、高い能力と行動力で、業績を拡大していった。素晴らしい自分の頭脳から湧き出るアイデアに酔いしれて、次々と子会社を設立したが、多くの子会社は期待したほどには稼げず、結局、親会社が赤字を補填することになる。そして、最後には、親会社の経営も悪化する。この時点で、「銀行は雨の日には、傘を貸さない」という、厳しい現実に直面する。そして、あげくのはてに、民事再生法の適用を受けることになる。

この企業が設立した子会社のラインアップをみると、まるで統一がとれていない。不動産売買や携帯電話の販売にも進出し、さらに、将来は環境事業が伸びると判断して、再生木材の販売にも進出している。物流サービス業と販売業は、まったく違うビジネスである。また、環境事業は、国の政策にも大きく影響されるので、技術力のない中小企業が安易に手を出さないほうがよい。国の大幅なバックアップが可能となれば、大企業がどっと押し寄せて、中小企業は土俵の外に弾き飛ばされる。環境ビジネスの現状を見れば、技術の裏づけのない企業が行き詰っているのが理解できる。

何といっても、この企業の一番の問題点は、運送・物流サービスという、本質的に高収益体制になり得ない事業形態で、様々な事業に進出したことである。ヤマト運輸が、運送・物流サービスという事業に特化している戦略をみると、自分のアイデアに酔いしれることが、いかにリスクが高いかを、この事例は教えている。懇親会で、儲かりそうなビジネスが見つかると、すぐに飛びついても上手くはいかない。本当に儲かるビジネスは、当の本人は誰にも話さないものである。株の予想も、競馬の予想も、本当に儲かるなら、予想する本人は誰にも話さない。当然の話である。

このような経緯をたどった企業の経営者は、多くの場合、もう少し資金の余裕があれば、何とかなったと弁解する。これは、企業年金の運用で1,000億円以上の損失を出した運用会社の経営者が、あと100億円あれば、何とかなったと弁解するのと、まったく同じである。あきれるほど、不見識な言い分である。まったく、「市場と顧客」という重大な観点が抜けている。

どのようなビジネスでも、「市場と顧客」の観点から、市場の変化と顧客の要求にどのようにして応えるかを考えることが重要で、それを実行するには豊富な資金力が不可欠である。高収益体制を構築することなしに、湧き出るアイデアを次々と実行していると、いつかは、資金が尽きる。

Sunday, April 1, 2012

No. 93: 細分化をともなわない選択と集中は危険 (April 2, 2012)

Management:
エルピーダメモリの破綻や、日本が世界に誇る大手家電メーカーの業績の悪化と立て続けに暗いニュースが報道され、行き過ぎた選択と集中が原因だという意見が主流になっている。しかし、家電大手の悲惨な業績は、選択と集中の戦略が間違っているのではなく、ビジネスの動向を見きわめて、市場、製品、対象とする顧客を細分化して、選択と集中の戦略を構築しないと、価格競争に巻き込まれる可能性が高く、大きな痛手を負うことを教えている。それをいち早く認識して、自社の強みを活かせるビジネスに特化した日立は、業績を大幅に改善させている。

同様なことがエルピーダメモリにも言える。得意先を、旧電電グループ企業の枠組みから超越することができず、ひたすら高性能で高品質の製品をより安く製造することに経営資源を投入した。半導体や家電製品のように、かなりの程度まで、コモデティ化がすすんだ商品は、選択と集中を追及して、大きな投資でコストを下げ、さらに良い品質を市場に出すという戦略だと、グローバル市場で苦戦するのが目に見えている。どんなにがんばっても、驚くほど安い人件費で、ものづくりをする国と戦っても、絶対に勝ち目はない。しかも、情報は瞬時に世界をかけめぐる。

高性能で高品質な商品を安く提供すれば、お客さまは喜んでくれるので、きっとよく売れるだろうと考えるのは、日本を中心にしてグローバル市場をみる、まったくの天動説。グローバル市場は、日本を中心に回っているのではない。サムソンが実行しているように、世界各地に営業員を駐在させて、現地顧客の要望を地道に取り上げる努力が不可欠である。その努力がサムソンの飛躍を可能にしたのである。円高は、家電メーカーの業績悪化の一要因に過ぎない。

さらに、市場を細分化して、企業に相応しいかどうかを精査する努力が必要である。選択と集中で、経営の行き詰ったコダックの例が、このことを示している。プリンターの市場は、コダックのような大企業がビジネスをするには、小さすぎる。企業規模に比して、小さい市場に参入しても、うまくはいかない。もちろん、大きすぎる市場に参入しても、うまくはいかない。「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という例えのように、自社の力を見きわめて市場を創造し、参入することが重要である。

現在の厳しいビジネス環境でも、アイリスオーヤマ小林製薬は、業績を大きく伸ばしている。これらの優良企業の経営の視点は、どのようにしたら過当競争から逃れることができるかである。つまり、事業領域を単なる製造業や製薬業ととらえずに、「これがあればいいな」という視点でビジネスをとらえている。事業領域を、このようにとらえることが必要な時代になっている。せっかく「C&C」(Computer and Communication)という事業領域で一時代を築いたNECが、それに続く素晴らしい事業領域を構築できずに、業績を悪化させている。ビジネスのグローバル化がすすむ今日では、「家電製造業」という事業領域では、業績の悪化は避けらない。