Tuesday, October 23, 2012

No. 106: ビジネスでは地動説が不可欠 (October 24, 2012)

Management:
急成長しているネット企業の社長の発言が大きな話題になっている。お客様を無視した発言であると、厳しい意見が相次いで投稿されている。発言を読んでみると、急成長した企業の経営者が、一度は経験する内容である。つまり、一躍有名になってしまうと、世の中は自分中心に回っていると思ってしまう。人間が自己中心的な動物である以上、このような発言をする危険性は、誰にでもある。

ビジネスでは、天動説ではなく地動説。世の中は、決して、自分中心に回っていない。どのような大企業であっても、必要なのは地動説。自社の素晴らしいテクノロジーにだけ焦点を合わせ、コスト削減の努力をすることなく、最先端技術を追い求めた企業も同じと考えてもよい。日本航空の歴史に残る素晴らしい復活劇を可能にしたのも、自社の視線でお客さまをみるのではなく、お客さまの視線で自社を見ることの重要性に、社員全員が気付いたからである。

ネット時代になって、情報は瞬時に世界を駆け巡る。素晴らしいアイデアと思っても、すぐに摸倣されるし、同様なアイデアでビジネスを展開している企業は世界中に存在する。競争力を維持するためには、不断の努力が必要である。

”The purpose of business is to create and keep a customer” は、ドラッカーが残してくれた素晴らしい言葉である。アイデアで顧客は創造できるが、アイデアだけで顧客を維持することは不可能である。つまり、顧客を維持するためには、不断の技術革新が必要不可欠である。そして、技術革新のヒントをくれるのが、お客さまなのである。

Thursday, October 4, 2012

No. 105: サムライ魂と孫子の兵法 (October 4, 2012)

Management:
チェコの首都プラハ中心部にある日本大使館前で、現地の中国系住民ら約100人が、尖閣諸島の国有化に抗議するデモをしたことが報道されている。また、真偽のほどはともかく、東京証券取引所では、不思議な動きをする中国企業の暗躍が報じられている。まさか、中国政府がバックアップしていることはないであろうが、それにしても、驚かされる。

「孫子の兵法」に、最高の戦略は「戦わずして勝つ」という記述がある。つまり、謀略のかぎりをつくして相手国を負かすというもの。デモをした人たちや、暗躍する企業の人たちは、この戦略を忠実に守って行動しているわけではないだろうが、やはり、4000年の歴史に裏づけされた国民のすごさを感じさせられる。

わが国の総理大臣が「大人の対応」を中国政府にお願いしたが、どうもその効果はなさそうである。そもそも、「大人の対応」とは何を意味するのか、言語明瞭なれど意味不明瞭。日本人のもつ美徳である以心伝心と言えば、それまでであるが、残念ながら、世界では通用しない。サムライ魂を愛してやまない日本人の琴線にふれる言葉であっても、それが通用するのは日本国内だけ。

一番心配されるのは、日本の政治の動きが遅いため、世界の日本を見る目が変化することである。つまり、行動をおこさないと、世界が、行動を起こしている中国の動きから、状況を判断してしまうことである。

トーマス・ワトソンの教訓ではないが、問題はすぐに解決すべきである。ビジネスでは、グローバル化が急速に進展しているが、どうも政治の世界では、未だに内向きの姿勢が主流のようである。

Tuesday, October 2, 2012

No. 104: 事業の多角化よりも市場の多角化 (October 3, 2012)

Management:
事業環境の変化で、本業の先行きが不透明になる。どのような企業でも、そのような局面に遭遇する。売上減を防ぐのに一番手っ取り早い方法として、他社を吸収し、新事業に乗り出して、事業の多角化を推進する企業は多い。しかし、ほとんどの場合、上手くいかない。

日本たばこ産業も例外ではない。かつて、森永製菓の子会社であるハンバーガーチェーン「森永ラブ」に出資したが上手くは行かず、2001年に撤退。店舗はロッテリアに売却された。高い授業料を払ったものである。しかし、貴重な教訓を生かすこともできず、今度は、旭化成の食品事業や冷凍食品の加ト吉を買収して、再度食品事業に進出している。それだけならまだしも、鳥居薬品を買収して医薬品事業に参入している。まったく、戦略に一貫性がない。まさに、お金の心配をする必要のなかった、日本専売公社の考え方そのもの。

毎日の売上に一喜一憂して戦略を考える必要のある外食産業、毎日消費者の動向をみて、柔軟に戦略を変える必要のある食品産業、10年あるいは20年先を考えて、戦略を練る必要のある医薬品産業、そして、本業のたばこ事業。このような事業をすべて上手く運営できる会社は、まず、存在しない。どんな優秀な社員でも、毎日の売上と、10年あるいは20年先のビジネスの先行きとを、毎日の日常業務で考えて行動することは不可能。当然の帰結として、事業部門間のコミユニケーションは疎遠になり、企業全体がぎくしゃくする。

事業の多角化は難しい。無理をして推進しても、利益率の低い事業構造を構築するだけになる。多角化するのは、事業ではなく市場。たばこの開発・製造で蓄積した技術を活かせる市場を考える。あるいは、市場を観察して、たばこ製造機の仕様を変更して生産可能な商品アイデアを考える。答えは、簡単に見つからない。しかし、社員が一丸となって、アイデアを出し合うことが重要である。それしかない。答えは市場にある。社内にはない。

どんなに楽観的に考えても、国内のたばこ市場は縮小する。そのためにも、不断の努力と全社員の英知を集めることが不可欠である。たばこ製造で蓄積した技術で、ITあるいはクラウドコンピューティングを駆使した製造業へのオペーレーションコンサルティング、たばこの香料開発で蓄積した技術で香料の開発あるいはコンサルティング、あるいは、蓄積したブレンド技術やコンサルティングも可能である。もう、たばこという看板にこだわる必要はない。いま、キヤノンをカメラメーカーと考える消費者はいない。必要なことは、発想の転換。

No. 103: リスクを分散させることは重要 (October 3, 2012)

Management:
日本触媒の事故で、紙おむつのサプライチェーンが混乱する可能性がでてきた。高級吸水性樹脂と、その原料であるアクリル酸の生産が停止したので、遅かれ早かれ、紙おむつを生産する企業は、すべて影響を受けることになる。

ビジネスでは、仕入先も得意先も、1社に大きく依存せずリスクを分散する体質を構築する努力は必要である。これは、交渉力を維持するという観点からも、非常に重要である。仕入先については、技術面から、複数の企業に分散することは難しい。しかし、不可能ではないはず。これは、素材メーカーの日本触媒の立場から言えば、得意先を分散することが必要ということになる。中堅企業が大手企業からの受注に大きく依存していたため、大手企業からの受注がなくなった途端、経営難になるケースは多い。

それでは、一社に依存する割合はどれくらいが適切であろうか。もちろん、正解はない。仕入先の分散については、個々に考えるしかない。しかし、得意先の分散については、1社で20%くらいが限界と考えられる。つまり、20%の売上減なら、販売努力や経費節減等で、何とかカバーできると考えられる。

リスクを分散することは重要である。これは、国家単位で考えても同じ。エネルギー政策を考えると、島国である日本は、非常に危うい状況にある。陸続きのヨーロッパ諸国と同じように考えるべきではない。偉大な政治家であるチャーチルは、エネルギー政策について、エネルギー源を多様化させることの重要性を強調している。同じ島国として、常に頭に入れておくべき教訓である。

No. 102: なぜ、ウォークマンは成功したのか?(October 2, 2012)

Marketing:
技術の進歩によって、スマホや携帯電話で様々なことができるようになった。こうなると、技術者は、次から次へと新しい機能を追加したくなる。優秀な技術者ほど、自分の才能を誇示したくて、新しい機能を開発したいという要望を抑えることができない。そして、ほとんど使用することのない機能が増え、商品価格を押し上げる結果となる。

なぜ、ウォークマンは成功したのか?それは、リスニングに特化した商品だったからである。ソニーの技術をもってすれば、ウォークマンに様々な機能をつけることは可能であっただろう。しかし、ソニーは、いつでも音楽を聴きたいという要望だけを満たす商品として、リスニングに特化したウォークマンを開発し、それが歴史に残る商品となった。

かつて、松下幸之助氏は、得意満面で新商品のプレゼンテーションする技術者に、「消費者は、その商品を買って喜ぶのか」と質問した。予期せぬ質問に、技術者は即答できなかったという。どのようなときでも、消費者の目線を忘れてはいけないという教訓として、技術者が心に留めておくべき教訓である。