Tuesday, October 2, 2012

No. 104: 事業の多角化よりも市場の多角化 (October 3, 2012)

Management:
事業環境の変化で、本業の先行きが不透明になる。どのような企業でも、そのような局面に遭遇する。売上減を防ぐのに一番手っ取り早い方法として、他社を吸収し、新事業に乗り出して、事業の多角化を推進する企業は多い。しかし、ほとんどの場合、上手くいかない。

日本たばこ産業も例外ではない。かつて、森永製菓の子会社であるハンバーガーチェーン「森永ラブ」に出資したが上手くは行かず、2001年に撤退。店舗はロッテリアに売却された。高い授業料を払ったものである。しかし、貴重な教訓を生かすこともできず、今度は、旭化成の食品事業や冷凍食品の加ト吉を買収して、再度食品事業に進出している。それだけならまだしも、鳥居薬品を買収して医薬品事業に参入している。まったく、戦略に一貫性がない。まさに、お金の心配をする必要のなかった、日本専売公社の考え方そのもの。

毎日の売上に一喜一憂して戦略を考える必要のある外食産業、毎日消費者の動向をみて、柔軟に戦略を変える必要のある食品産業、10年あるいは20年先を考えて、戦略を練る必要のある医薬品産業、そして、本業のたばこ事業。このような事業をすべて上手く運営できる会社は、まず、存在しない。どんな優秀な社員でも、毎日の売上と、10年あるいは20年先のビジネスの先行きとを、毎日の日常業務で考えて行動することは不可能。当然の帰結として、事業部門間のコミユニケーションは疎遠になり、企業全体がぎくしゃくする。

事業の多角化は難しい。無理をして推進しても、利益率の低い事業構造を構築するだけになる。多角化するのは、事業ではなく市場。たばこの開発・製造で蓄積した技術を活かせる市場を考える。あるいは、市場を観察して、たばこ製造機の仕様を変更して生産可能な商品アイデアを考える。答えは、簡単に見つからない。しかし、社員が一丸となって、アイデアを出し合うことが重要である。それしかない。答えは市場にある。社内にはない。

どんなに楽観的に考えても、国内のたばこ市場は縮小する。そのためにも、不断の努力と全社員の英知を集めることが不可欠である。たばこ製造で蓄積した技術で、ITあるいはクラウドコンピューティングを駆使した製造業へのオペーレーションコンサルティング、たばこの香料開発で蓄積した技術で香料の開発あるいはコンサルティング、あるいは、蓄積したブレンド技術やコンサルティングも可能である。もう、たばこという看板にこだわる必要はない。いま、キヤノンをカメラメーカーと考える消費者はいない。必要なことは、発想の転換。

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